12.<ジャスパー(3)>

 一夜を過ごしたバンガロ-におさらばして、私達三人はジャスパ-の町に出かけました(バンガロ-の正式名称はジャスパ-・パ-ク・ロッジだとか)。
 最初に行ったのは駅です。この駅のことは後回しにします。とにかく荷物をあずける場所がここぐらいしか無さそうだったし、どうせ夕方にはここから汽車に乗るんですから。
 汽車?いや電車かな?ジ-ゼルかも・・・。えぇいめんどう臭い!列車、そう、列車に乗るんです。で、その時はとにかく荷物を預けて身軽になってショッピングにお出かけです。
 あ、そうそう。私がどうしても欲しかったもの、それは何だと思いますか?えぇ-と、実はつまり・・・そのぉ・・・(じらすな!!)ぬいぐるみなんです。(な、何だって! ぬ、ぬいぐるみ?? 一体いくつになるんだお前は!! そもそもだなぁ、ぬいぐるみなんてぇもんは云々かんぬん・・・)
 まっ、まっまぁそんなに怒らないで下さい。(ちぇっ、だからこんなことあんまり言いたくなかったんだ。 )で、でもですねぇ、ぬいぐるみと言ったってそれを抱いて寝たいとか、いつも一緒でないといやだからカバンにしのばせて会社に持っていくとか言うんじゃぁありません。

 そのぬいぐるみは我が地球の歴史を背負っているようなと言うか、誰も見たことがない動物なのに、なつかしいような親しいような不思議な感情が湧いてくるのです。と云っても決して架空の生き物じゃぁありません。ン万年前の氷河時代に地球上を闊歩していた、象科の巨大な哺乳動物・ ・・そう、マンモスです。

 

 そのマンモスのぬいぐるみをバンフと、そこから氷河へ行く途中の町レイクルイ-ズの二ケ所で見かけて、あっと思ったのですが、その時はほんの通りすがりだったし、まぁ観光地なんだからどこに行ったってあるだろうと簡単に考えていました。ようし、ジャスパ-なら時間があるから買ってやろうと云うわけです。  ところがきのうまでは当たり前のようにあったマンモス君が、ここジャスパ-ではいくら探してもないのです。女供・・じゃぁなかったえぇと、女性の皆様方があれも欲しいしこれもいいんじゃぁなぁいぃ・・とあさり歩いている間、私は必死も必死、血眼になって我が愛するマンモス君を捜しまわりました。でもだめ。F美が土産店でたずねてくれたりしたのですがどこでも冷たい返事ばかりです。
 一軒の土産店に日本人のかわいい女店員がいました。いや、かわいいと言ったって、美人とかなんとか言う意味のかわいいってことじゃぁなくって、つまり幼い感じと言うことです。このへんをぜひ誤解しないでいただきたいのです。(でないとあとが大変なことになる・・・。) でも何だかひさしぶりに知己に遭遇したみたいな気分で、いろいろちょっとだけ話しました。
 その子は英語の勉強のために、二週間ほど前からアルバイトをしているんだとか。なぁるほど、そう言うやり方もできるんだなぁと、少しばかり感心しました。  でも私はそれどころじゃぁありません。さっそく得意の日本語を縦横に駆使してマンモス君の行方をたずねてみましたが、やはり見たこともないとのことです。
 さいわいと言うか、F美のカメラに納まっていたので写真屋にフィルムを預けて、夕方あらためて眺めましたが、いやぁ何回見てもいいですねぇ。決してカッコよくはないけれど、どうしても憎めない奇妙な魅力にあふれた風貌です。
 で、ちょっと話が跳びますが、翌日バンク-バ-ではその写真を示しながらたずね歩いたのですが、どの店に入っても全く音沙汰無し。
 ついに愛するマンモス君は私の心の中にだけさびしく生き続ける運命と成り果てたのでした。
 あぁ永久に幸あれ、我がマンモスよ!!

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