17.<雲のじゅうたん>

 F美と別れて飛行機に乗りました。F美は短期のホームステイがあるからとか言って一人カナダに残り(イイナイイナ)、通訳不在になってしまいました。

 飛行機はもう慣れたもんです。あの浮き上がる感じが何とも言えませんねぇ。はやく発車..じゃぁなくて、発機(?)しないかなぁと心待ちにしておりました。

 あぁいい旅だったなぁ。ロッキーの山々のこと、氷河のこと、動物たちのこと、列車のこと、お婆ぁさんのこと、コンビニのこと、スモークサーモンのことetc.etc. ・・・いろんなことが次々と心を襲ってきました。もちろん、あのまぼろしのマンモス君のことはどうしても忘れられません。このままカナダに居られたらなぁ。そうだ出発がうんとおくれればいいんだ、あの列車みたいに..とかなんとか勝手なことを考えていたら、少し寂しくなっちゃいました。涙こそは流しませんでしたが、でも心の中はもうナイヤガラです。ボクってやっぱりロマンチストなのネ。

 やがて非情にも定刻に飛行機が動き出しました。さようならロッキー君、と窓の外を眺めても山はほとんど見えません。やはり今日は雨だったのです。ときどき遠くの方にちらっと山らしき姿が見えたりもしましたが、飛行機はすぐにぐるっと回って海の上に出てしまいカナダのカの字も見えなくなってしまいました。

 すると食事です。えぇと、たしか朝は食べてきたんだからこれは昼飯だなと、即座に理解してじっくりと戴きました。

 それから窓のシャッターが全部閉められ明かりも消されて真っ暗です。真っ昼間なのに時差がどうとかで、今眠っておくと日本についたときに便利なんだとか。騙されたつもりでぐっすり眠りました。

 目がさめるとライトがつけられていて明るいことはあかるかったのですが、すぐ食事になったのには参りました。それも朝飯だそうです。だってさっきお昼を食べたばっかりなのに、またぁ? まだ食べたくないと言う気持ちと、なんだか夕飯一回抜かされたんじゃないかしらと言う気持ちがごちゃまぜの、複雑な食事でした。でもすぐにそんなことはどうでもいいことだと思って、たくさん食べちゃいました。

 そろそろいい時刻だが・・と思っていたらやはり日本に近づいてきたようです。アナウンスがそう言っていましたから。真上から見た日本はどんなだろうか。出発の時はそれどころじゃぁなかったので良く見ていませんでしたが、今度こそはじっくりとこの目ン玉に焼きつけておいてやろうと構えていたのです。  ところがシャッターがいっこうに開かない、と云うかあける人がいません。あちこちきょろきょろ見回すのですが、窓際の人はみんなすましている。もう何べんも見て見飽きていらっしゃるのか、それとも日本なんて見たってつまらんとお考えなのか。でも私は見たいんです!まだ一度も見たことがないんです!!とでも叫んだら誰かあけてくれたかも知れませんが・・・これって英語で叫ばないとダメかしら?  日本は雨、とアナウンスされました。やっぱりそうかぁ。がっかりして窓の方を見ると、シャッターの隙間から光が差し込んでいます。外はものすごく明るい感じです。なんだびっくりさせやぁがって、いい天気じゃぁん。

 きょろきょろしていたのが見られたのかそれとも偶然か、一人の子供がシャッターをあけてくれました。ひゃぁまぶしい。他の乗客もつぎつぎにあけました。これがわが祖国日本かぁ。まるで蒲団工場みたいだなぁ、それもとびっきり上等の綿を拡げて...でもそれは真っ白にかがやく雲海だったのです。

 どちらを見ても山、山、山だったカナダ。かたや雲ばっかりの日本。共通するのは限りない青空。そんなばかな..。

 でもそれは自分が雲の上にいるからで、下界はかなり強い雨なんだとか。なぁるほどと思いました。上から見下ろした雲がこんなに真っ白で明るいと云うことは、太陽光線がほとんど反射されちゃっているからなんだナ。つまりそれだけ下は暗いんだろうナ。

 やがて飛行機が下降しはじめて雲に突っ込むとまわりは何も見えなくなり、だんだん暗くなってきました。そして薄ぼんやりと見えてきたのは水をはった田圃でした。稲が植えられていたかどうかはっきりとは確認出来ませんでしたが、たぶん房総辺りの田園地帯でしょう。かなり広かったように思います。まぁこれでも一応は上空から祖国を眺めたことになるのかなぁ。

 ゆっくり見ている暇もなく、飛行機は空港におりてしまいました。と云うことで旅は終わったのです。

 でもこの本には私共が遭遇した、とある重大事件のことがまだ書いてありません。