18.<ハイジャック未遂事件(1)>

 私共がカナダから帰ってからしばらくして、えぇっと5月か6月頃だったと思いますが奇妙なハイジャック騒ぎがあったでしょう。機長が殺されてしまいましたよね。あの犯人には変に子供っぽい未発達な部分と非常に専門的な知識と技術力に長けた部分とが混在していたそうですね。現代のゆがんだ教育といびつな社会が生み出した象徴的な事件なのかも知れません。

 事件について深くは触れませんが、マスコミで騒がれたことの中にちょっと引っ掛かることがありました。犯人は羽田空港の警備システムの不備を指摘し、それを実証してみせたというものです。

 しかし私に言わせればそれは何も羽田空港に限ったことではありません。成田国際空港だっていい加減なものです。現に私共は刃渡り数十センチの鋭利な刃物(!)を機内に平然と持ち込み、外国まで行ったのですから。それもあの犯人のように一度大阪の方へいってくるといったような面倒なことはしていません。まっすぐ、ごく自然に、ストレートに、そのまま国際線に乗り込んだのです。その巧妙にして簡単な手口一挙公開!!

 この旅行で私共の荷物はリュックサックが3コだけ。つまり1人1コづつです。短いとは云ってもやはり海外旅行です。あれが要るこれも、そしてどれもそれも持っていかなくっちゃ...といつの間にかリュックは3コ共ぎっしりつまってパンパン。限界まで膨らみきったリュックをよいしょとかついでのお出かけでした。

 空港で荷物チェックがあり、3人はリュックを降ろして金属探知機のゲートをくぐらせました。その時リリリリ・・・・ッと、けたたましいベルの音。私達の荷物が検査に引っ掛かったのです。係官が血相をかえて荷物を取り押さえます。

 A子が正直に白状しました。「ナイフを持ってきたんです。ここに入っています。」彼女は自分のリュックを指しました。「だ、出して下さい。」あわてた係官の強くて冷たい言葉におされ、A子は荷物をごそごそと引っ掻き回し始めました。業を煮やした係の人は「全部出して!!」と命令調です。ついにリュックサックは真っさかさまにされ、その中身があられもない姿をさらけだしました。なんでこんなものまで..と理解に苦しむようなものがいっぱい出てきましたが、そのことはここでは問いません。

 やじ馬という奴はどこにでも現われるもの。興味津々のまなざし、非難の冷たい目玉、哀れみのまなこ、同情の瞳etc.etc.がいつの間にか私共を遠巻きに囲んでいました。

 三人は一致団結して必死に探したのですがナイフは出てきません。検査官殿までも手伝わせちゃったりしましたがダメ。嗚呼鋭利なる刃物や何処へか消え去らむ。

 根負けしたのか、係官が「もういいから」と言って通行許可になり、私達は散らばった荷物をかき集めてまたリュックにぎゅうぎゅう押し込むと急いで飛行機に乗り込んだのです。

        危険物
        危険物

 あの刃物はいったいどこへいちゃったのでしょうか。実はそれはどこでもない、リュックの中にちゃんとあったのです。探知機は正しかったのです。ではなぜ必死に探しても出てこなかったのか。ここにからくりがあったのです。このからくりを見抜けなかった成田空港のチェック体制がいかにいい加減でずさんなものであるかお解りいただけたでしょうか。そしてこのなぞが解けた方はすばらしい推理力の持ち主です。(ドラマの見過ぎかもネ。)

 と言うわけで刃渡り数十センチの鋭利な刃物は無事に、白昼堂々と機内に持ち込まれました。