15.<大陸横断鉄道の旅(2)>

 デッキから逃げるように飛び下りて、はてさてほかの乗客たちは一体どうしているんだろうかと辺りを見回しました。やはり私と同じようによじ登っているんじゃぁないかと。

 でもどこにもそんな様子はありません。みんな静かに何かを待っているようです。(あとから考えてみればそんなことはみなさん御存じだったんでしょう。私達と同様初めての人もいたでしょうが、案内人がついていて説明を聞いていたんですね。だから落ち着いていられたんだ。そんな中で何も知らない私だけが勇をふるった・・・に違いない。)

 やがて発車時刻をずいぶん(30分ほど?)すぎた頃、駅員があらわれて各乗車口に踏み台を置きはじめました。それは三段くらいの階段になっていて、楽に列車に乗り込める。

 なんだ、よじ登る必要なんかなかったのかと、ちょっぴりがっかりして深くふかく反省しました。でもそれならば初めからそう説明があってもいいんじゃぁないだろうか、大体時間どおりにしないからこんなことになるんじゃぁないの、時刻表はなんの為にあるんだよぅと、いささか腹が立ってきました。

 まぁこれが大陸風のやり方なのかな。考えてみりゃぁ時間に追いまくられる日頃の生活を離れたくってわざわざ高い金を払ってまで大陸にやってきたんじゃぁなかったのか(いやもちろんそんな高度なこと考えてカナダまで来たわけではありませんが・・・)。 もしやこれは天が私奴に与え給もうた試練かも?(キザ!!)

 さて踏み台の階段をゆっくり踏みしめ味わいながら、指定の客室に入りました。部屋は2人用と1人用の二つとってあり、F美が1人部屋にいきました。 部屋には私達の荷物が置いてありました。乗務員が運びこんでおいてくれたのです。  二人部屋はけっこう広く、二段ベッド付きなのですが、下のベッドは壁に立てるようにくっついており、上のは天井一杯まで上げてあって部屋が広く使えます。そして狭いながらも洗面台とトイレがついているのです。別にシャワールームが1輛に2つあるとか。さすがぁ!!

 そんなことに感心しているうちに、いつの間にか列車は動き出していました。窓から見えるのはロッキーの山々。展望車があると言うのでさっそく行ってみました。その車両は床が一段高くなっていて、窓から上はすべてガラス張りです。もちろん天井もです。そのガラス越しに飛び込んでくるカナダの大自然の雄大な姿にしばし言葉を忘れました。

 列車は50km/hほどでゆっくり走ります。観光列車だからと云うことらしいです。展望車ではワインだったかブランデーだったか、飲み物も出されました。それに舌づつみをうちながら、次々とあらわれては去っていく雄大な山々と森と湖をたっぷり味わった次第です。展望車のとなりが食堂車です。夕食はそこでゆったりと戴きました。

 部屋に戻ると乗務員がベッドの準備をしていました。下のベッドを壁から、上のを天井からはずしています。プロなんだから当然とは言え、その手際よさにしばらく見とれていました。  夜には今度は星空が見られました。晴れわたった上にスモッグのない澄み切った夜空を見ているうちに、子供の頃を思い出しました。あの頃は日本だって星がいっぱい見えたんだ。天の河だって星が一つづつ数えられそうに見えた。今でも高い山にのぼれば、こんなふうにすばらしい星空が見られるんだろうか。それとも・・・


 星明かりで山並が見られ、凍った湖もたくさんありました。とそのとき、貨物列車がすれ違っていきました。とっさに私は勘定しはじめました。1輛、2輛、3.4.5・・・。

 実はジャスパーの駅で貨物列車がとまっているのを見て、あまりに長いのにびっくりしていたのです。それで一体何輛あるのかなと、ちょっぴり興味がわいたものですから。

 暗がりの中に木材がたくさん見えましたが、ほかに何を積んでいるのかはわかりませんでした。48、49、50、51・・・・・・根気よく数えて96までいって終わりました。最初に5輛くらいは見逃しているので都合100輛以上になるはずです。あとで聞いたら長いのになると500輛くらいなんだそうです  (@..@) 。

 それから部屋でぐっすりと眠りました。翌朝目がさめると、列車はまだ走っていました。ゆっくりゆっくりとカナダの大地をなめるように進んでいます。ジャスパー発16時25分、バンクーバー着8時55分、途中に時差が1時間あって結局17時間半乗っていることになります。(これは時刻表の数字で、実際はかなり違いましたが・・・)